お知らせ
整形外科診療における新型コロナウイルス感染症(COVID-19) Q&A
はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は年末からさらに広がり、今後の患者の増加については予断を許しません。状況は刻々と変わっていき、感染経路不明の感染者も増加し、各地で市中感染として取り扱わなければいけない状況になってきております。患者さんの増加につれ整形外科医もCOVID-19感染、あるいは感染疑いの患者さんと接触する機会も増えてきて、日常診療でどうすればいいのか、疑問が出てくることも多くなりました。
2020年4月以降、日整会ホームページで整形外科関連の最新の論文や手術のトリアージ、手術再開に向けての提言をアップしてまいりました。今回、整形外科診療におけるCOVID-19、あるいは疑い患者の対応方法についてQ & A 形式でまとめてみました。整形外科の先生方の日常診療の一助になれば幸いです。
なお、感染の拡大状況は経時的に変化してまいります。
また、地域、施設により対応方法にも違いが出てきますので、各施設の規則に則り、また厚生労働省がホームページで公開している最新情報
新型コロナウイルス感染症について
日本医学会連合のCOVID-19 expert opinion(2020年11月20日版)
などを参照にされながらご対応ください。
整形外科診療における新型コロナウイルス感染症(COVID-19) Q&A
Q1
受付、外来で患者に対応するスタッフでも防護対策は必要でしょうか?
必要です。無症状者の中に病原体を保有している可能性があります。受付等、外来で患者に対応するスタッフもマスクを着用し、可能であれば手袋、フェイスシールドまたはゴーグル着用を考慮してください。また社会的距離をとって対応し、患者対応後の手指消毒に努めてください。
以下を参考にしてください。
- 待合室入室前に体温チェックを行い、発熱があれば発熱外来での対応を奨励します。
- 患者同士の濃厚接触、感染を回避するため、待合室での手指消毒、マスク着用を奨励します。
- 手指消毒のためのアルコール消毒液は待合室に備え付けておく必要があります。
- 座席は対面にならないように、2m以上(最低でも1m)離れて座ってもらいます。
- 待合での混雑を避けるため受診予約の調整が必要です。
Q3
待合室の環境管理での注意事項について教えてください。
以下を参考にしてください。
- 受付と待合室の間にアクリル板の設置を考慮してください。
- 定期的に待合室の換気を行ってください。
- 患者さんが使用した椅子、手すり、トイレのアルコール消毒を推奨します。
- 環境清掃を行うスタッフは手袋、サージカルマスク、ガウン、フェースシールド、キャップなどの個人防護用具を着用することを推奨します。
Q4
手術待機患者が来院した際に、新型コロナウイルス感染症に対して事前に問診すべき項目とその時の注意点を教えてください。また、予約患者に対して、来院前に同様の項目を確認する事は推奨できますか?
以下を参考にしてください。
- 新型コロナウイルスへの感染状態に関する問診や体温測定の結果次第では、延期になる可能性があること。
- 手術における感染対策は万全を期しているものの、院内でウイルスに曝露する可能性があること。
- 各施設の感染対策に応じて、入院中の面会制限、外出ならびに外泊制限が あること。
Q5
待機手術予定患者が来院した時に伝えるべきことはありますか?
手術待機患者への新型コロナウイルス感染予防に関する患者教育は非常に重要です。以下を参考に患者へ説明してください。
- 手術の2週間前から健康観察(1日1回の体温、のどの痛み、頭痛、咳や痰、疲れやすい、倦怠感、味覚や嗅覚の異常、4-5日続く下痢などの消化器症状)を行う。
- 感染リスクを伴う行動は控える。具体的には、手術前の2週間以内において、
特定地域への訪問を控える、特定地域からの訪問者との接触を控える、新型コロナウイルス感染者やその疑いのある人と接触しない、海外に渡航しない、海外からの帰国者と接触しない、大規模なイベント・ライブハウス・接客を伴う外食店での飲食・大人数での飲食・長時間の会食を行わない。
- 新型コロナウイルスの感染が確認または疑われる場合は、速やかに主治医へ連絡する。感染が治癒した場合には、どのように治癒が確認されたか(PCR検査の回数、症状軽快後の日数など)主治医に報告する。
手術待機患者の入院前および入院時に、健康観察や行動履歴などの感染リスクを確認することを推奨します。来院前に感染リスクを把握することで、感染リスクを伴う患者の来院を控えていただくことができます。まずは、手術前検査の予約日を術前2週間の健康観察が行える時期に設定することをおすすめします。
体温、症状をはじめ行動履歴を確認し、感染リスクのある場合は、手術の延期も検討する必要があります1。延期できない手術の場合は、実施可能な感染対策をとった上での手術もしくはそのような施設への紹介をご検討ください2。
Q6
問診や体温測定で新型コロナウイルスの感染が否定できませんでした。どのように対応すべきでしょうか?
以下を参考にしてください。
- 手術内容を勘案し、緊急性を要しない延期可能な場合には延期としてください1。
- 術前検査としてPCR検査は必要とされますが、その感度は60-70%と報告されており3、4、検査の時期や検体採取法により偽陰性もありえることを念頭に入れてください。
- 患者の状態より手術が必要であると判断された場合には、自施設での体制が整っているかを判断し、可能と判断できる場合にのみ手術の実施を考慮してください2。
- 自施設での体制が整っていない場合は、対応可能な他施設(感染対策がしっかりととれている施設)への紹介を検討してください2。
Q7
問診や体温測定で新型コロナウイルスの感染者の可能性が低いと判断されました。どのように対応すべきでしょうか?
待機手術の場合には手術内容を勘案し、緊急性を要しない延期可能な場合には延期としてください1。手術の必要性がある場合は、術前検査としてPCR検査を行い、病棟や手術室においてウイルスに曝露する可能性があることを伝えた上で手術を行ってください。なお、患者の状態や手術内容(侵襲の高いものや術後集中治療室が必要となる可能性のあるものなど)によっては他施設への紹介をご検討ください2。この点については,各地域の感染状況に応じた連携体制をあらかじめご確認ください。
Q8
新規の変性疾患、慢性疾患の手術予約について留意すべき点はありますか?
無症候性の感染者の報告も相次いでいますので、医療従事者と手術患者を守る観点から、地域での感染状況が高く、緊急事態宣言の発出や分科会でのステージ4の状況の場合は、新規の変性疾患、慢性疾患の手術のうち緊急性の無いものについては新規予約の延期を考慮することを推奨します。なお、新型コロナウイルス感染は地域での差が見られており、その地域ごとの状況に応じての対処が必要なのは言うまでもありません。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく政府による緊急事態宣言の解除後は通常の待機手術の再開は可能と考えますが、感染防護体制の状況に加えて、地域の感染状況、自治体独自に発出される新型コロナウィルスに関する通達や医師会等の意見も参考に再開ならびに新規予約をご検討ください。
Q9
すでに手術を予約している待機手術に関してはどのように対応すべきでしょうか?
前項と同様に、地域での感染状況が高く、緊急事態宣言の発出や分科会でのステージ4の状況の場合は、既に手術を予約している待期手術のうち緊急性の無いものについては延期を考慮することを推奨します。手術予定者に電話や郵便等で連絡し、事情を説明し来院を控えるよう指示することが肝要と考えます。この「事情」については、物品不足・感染拡大など、各施設や地域の実情に沿ってご説明ください。緊急事態宣言の解除後は、通常の待機手術の再開は可能と考えますが、感染防護体制の状況に加えて、地域の感染状況や医師会等の意見も参考に再開をご検討ください。
Q10
緊急事態宣言下でも延期できない手術にはどのようなものがありますか?
手術を延期できないのは、以下のような早期治療を要する状態です。即ち脊髄・神経麻痺、外傷、開放骨折、悪性腫瘍などです1。
Q11
緊急事態宣言下で延期してもよい手術にはどのようなものがありますか?
外来手術、生命を脅かすことがない状態については、手術を延期すべきです。
例えば手根管開放術、関節鏡手術などです。
生命を脅かすことはないが、将来的には病的状態や死亡率に影響する状態、入院治療を要する状態については延期を検討します。例えば人工関節置換術、待機できる脊椎手術などです1。
Q12
県外在住の患者さんに手術を行う時に留意すべき点はありますか?
全国的にコロナウイルスが蔓延していると考えられる場合には、県内、県外在住の区別はあまり意味をなさないものと考えられます。また、緊急事態宣言下では県を超えた移動は制限が原則となりますので、やむを得ず治療上県外での手術が必要な場合、特に感染拡大地域からの患者さんの予定手術の場合には、可能であれば2週間前に現地入りしていただき、事前に外来でのPCRチェックを施行の上、陰性を確認してからの入院とする。緊急時の場合には、可能な限り病棟に上がる前にPCR結果を確認する。来院14日以内に症状がある、または新型コロナウイルス確定患者との濃厚接触があり感染が否定できない場合は個室での入院対応を行い、その後の対応は個別に感染対策チームと相談を行う。
Q13
問診にて感染リスクが低いと判断された患者の同意取得は通常どおりの対応で宜しいでしょうか?
新型コロナウイルス感染症が流行している現在、感染経路不明の症例だけではなく無症候性感染の報告も多数あり、問診だけで感染を否定することは困難と考えられます。他国では無症状の患者が手術後に新型コロナウイルス感染症が判明し術後のICU入室、死亡の報告もあります。したがって、手術同意取得の際には、問診で感染の可能性が低いと考えられる場合でも、感染を完全に否定できないことや、万が一術後に感染症が判明した場合の予後が不良であること、などについても地域の感染拡大情勢を踏まえて説明することが望まれます。
Q14
感染が疑わしいと考えられた患者からの同意の取り方について教えてください。
コロナ感染が陽性、あるいは疑いの患者について、待機的手術は行わない(延期する)ことを基本とします。緊急手術において同意取得が必要な場合は、まず、後ろ向きのデータから、コロナ陽性の患者は術後の呼吸器合併症リスクが高く、発症した場合の予後は不良であることを説明します。そして、手術の必要性、緊急性がそれを上回る場合、それを説明して同意を得る必要があります。
最終的には麻酔科と協議し、主治医が判断することになるかと思います。可能であればPCR検査による陰性を確認して手術することが望ましいと考えられます。
Q15
整形外科手術の人の流れ、人員について工夫すべき点があれば教えてください。
整形外科に限りませんがコロナ陽性患者手術室運用として、人の流れ、人員については、以下の対応を参考としてください。
- ほかの患者と入退室を分ける。
- 人の出入りは最小限。基本、一度部屋に入ったら、出ない。
- 麻酔の導入はエアロゾル暴露のリスクあり、術者は近寄らず、最低人数で導入する。
- 退室時、術者は一度部屋をでて、新しいPPEを着てベッドにつきそう。室内のスタッフは退室には付き添わない。
Q16
感染が疑われる患者や感染確定患者の緊急、準緊急手術を施行する場合にはどのように対応すべきでしょうか?
以下の対応を推奨します。
- 新型コロナウイルス感染症の疑い、あるいは確定患者であっても、どうしても(準)緊急手術が必要な場合においては、徹底した感染防護策を遵守することで実施できます。しかし、緊急的な手術を自施設で実施すべきか、対応可能施設に搬送する余裕があるかを十分に見極めてください。
- 整形外科手術においては、その難易度により時に時間がかかることもあり、また、麻酔導入・覚醒時における患者の咳や排ガス等で飛沫が起こりやすく、術者・麻酔科医をはじめとするスタッフの感染リスクはより高くなり、ひいては院内感染につながるリスクが高いと考えられます。したがって、術者を含むスタッフ全員が、適切な防護策を講じた上で(準)緊急手術にあたってください。なお、一般的な防護策としてシューズカバーは必要ありませんが、血便や下痢など、便による汚染の可能性がある場合には着用をご検討ください。
- 手術室までの患者の移送については各施設の規則に則って行ってください(ゾーニングの徹底)。
- もし、手術の順序の調整が可能であれば、感染の可能性の低い患者の後に行うよう、手術の順番を考慮することを推奨します。
- 患者を手術室に入れる際には、他の患者や感染防護策を行っていないスタッフ等がいないことを確認してからとしてください。
- 手術に関わる医師ならびにスタッフは、手術ガウン、N95マスク、ゴーグル(もしくはフェースシールド)、キャップ、手袋二重着用、可能であればシューズカバーを着用する事を推奨します5。
- できる限り陰圧室での実施を推奨します6。陰圧室での施行が難しい場合は、手術室の換気にもHEPAフィルター設置などの十分な配慮が必要と考えます。しかし、エアロゾルを広めないために手術室は他の部屋や通路に対して開放せずに行う必要があります。終了後の手術室内の換気を適切に行う必要があります5。
- 個人防護具の不足を招かないためにも、また、ウイルスへの曝露リスクに晒されるスタッフを少なくするためにも必要最小限の人数で手術にあたってください。
- 器具の汚染や手術後の洗浄を考慮し、手術室に置くものは必要最小限してください。電子カルテ等のキーボードについても、のちの接触感染を防止するための工夫(カバーをかける、アルコール等での消毒)もご考慮ください。
Q17
入院、手術の家族に対してはどのように対応すべきでしょうか?
どうしても付き添いの方が手術室あるいはリカバリー室などに入室しなければならなくなった際にも、術者と同等レベルの個人防護策を講じる必要がありますが、個人防護具には限りがあります。また、付き添い者も感染リスクを負うことになります7。別室でのモニターがあれば、それを活用したり、手術後の画像を紹介するなど施設の状況に応じた対応をお願いします。どうしてもという場合でも1名を限度とすべきです。
Q18
問診や体温測定で新型コロナウイルスの感染者の可能性が低いと判断されました。どのように対応すべきでしょうか?
無症状もしくは軽微な症状の SARS-CoV-2 保有者を問診および診察で見極めるのは困難であり、もし不顕性感染患者に全身麻酔下に手術を行えば COVID-19 による重篤な術後合併症を惹起し、同時に院内感染が発生する恐れがあります。外科手術待機患者の感染スクリーニングとして PCR 検査を行って陰性を確認した上で手術を行うことが望ましく、無症状の患者に対しても医師が必要と判断し本検査を実施した場合は保険適応になりました8,9。
一方、術中の感染対策として、気管挿管および抜菅、手術中の電気メスや超音波凝固切開装置、その他の energy device での処置、腹腔鏡手術などはエアロゾルを発生し得るため、飛沫感染のリスクが高まることを認識する必要があります。個人防護具の着用とともに、高精度フィルターおよび排ガス装置などの対応が推奨されています8,10。
周術期 COVID-19 感染患者に対する外科的手術の死亡率並びに呼吸器合併症に関する国際コホート研究では、術前 7 日以内あるいは術後 30 日以内に COVID-19に感染した患者が外科的手術を受けた際過半数に呼吸器合併症が発生していたことが分かりました11。また、全体の30日死亡率は23.8%(268/1128)でその8割以上が肺合併症でした11。整形外科疾患だけに絞ってみても30日死亡率は28.8%、呼吸器合併症は44.3%もありました。全体の30日死亡リスクとして、男性、70歳以上、ASA分類3以上、悪性腫瘍、緊急手術などが挙げられており11、これらに該当する患者の手術は、中止あるいは延期も検討が必要と思われます。しかし、様々な状況を鑑み手術を余儀なくされた場合は、上記リスクに対する対策を徹底するとともに、患者の容態を注意深く経過観察することが重要です。手術後も引き続き感染予防対策を講じていく必要があります。術者・スタッフの個人防護具(PPE)は、手術室を出る際に破棄します。なお、防護具を破棄する際にはウイルス飛散などの可能性について十分に留意してください。個人防護具を外す際には、手袋、ガウン、マスクの順に外す、もしくは手袋とガウンを同時に外して最後にマスクを外す、などの方法がありますが、いずれも汚染面に触れないように注意して下さい。ガウンは汚染面が内側にくるようにたたんでまとめて廃棄して下さい。また、破棄後は肘までの手指洗浄を徹底して行うことが重要です。なお、防護具の具体的な外し方についてはいくつか提示されていますのでご参照ください12-14。
新型コロナウイルス感染患者または感染が疑われる患者の術後搬送は手術室外で待機している最小限の人員で行いましょう15。搬送に関わる人員のPPEは、手術時に使用したものと同じであってはなりません3。手術着は手術室域内で着脱するようにしてください15。患者の処置後は、手術室域内でシャワーを浴びることを考慮してください。さらに、頻繁に手洗いするとともに、社会的距離を確保するようにしてください15。
感染確定患者の手術後は、医療従事者は個人防護策を徹底していれば曝露リスクは低リスクと判定されます。しかし、認識されない曝露があるかもしれないため、その日は業務から外れるなど各施設の基準に則り対応してください。以降は、自己モニタリングは必須であり、毎日の体温測定、症状の評価を行い無症状であることを確認してからその日の業務を始めてください16。
一方、個人防護策の徹底なく該当患者と接触した医療従事者は、PCRを受け結果判明まで自主隔離することが望ましいです17。ただし、自主隔離の必要性は、各施設内の感染制御部に相談してください17。患者は隔離し、院内ルールに従いご対応ください。
「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)」では医療従事者の帰宅時の対応について、整形外科学会も連名で下記のとおり提言されています15。まず、病院は患者の手術や処置を終えた医療者が自宅に戻れない(帰れない)場合に備え、宿泊施設を準備するようにするようにしてください。様々な物体の表面から新型コロナウイルスの感染が広がることに注意してください。銀行ATM、自動販売機、ガソリンスタンドでの給油、そのほか対人手渡しで商品を購入する際は、手指消毒を行うか使い捨て手袋を使用するようにしましょう。携帯電話はウイルス汚染しやすいため、清潔に保つことに留意してください。帰宅時はすぐに服を脱いで洗うことを考慮ください。家族間でも身体接触を減らし、手をよく洗うようにしましょう。60%アルコールなどで家の中、特に手がよく触れる場所を掃除することも推奨されています。医師が家族を新型コロナウイルスの感染から守る方法について、米国Weill Cornell Medical CenterのDavid Price医師による解説した動画が掲載されているサイト18が参考になります。
Q19
感染が疑われる患者や感染確定患者の緊急、準緊急手術後の患者への対応で注意すべき点を教えてください。
手術後は、患者にもマスクを着用させます。特に経口や経鼻挿管を行った場合では、咳嗽の頻度も高く、術後の飛沫感染を予防するためにマスクを必ず着用させてください。
また、感染が疑われる患者がリカバリー部屋を用いる場合は、必ず他の患者と隔離される別の部屋をご用意ください19。術後リカバリー室の利用方法として、普段から患者間距離を2m以上あけて、患者にマスクを着用させ、術後リカバリ室滞在時間を最小限にとどめ、術後抜管困難症例はICUに入室させ、術後患者対応ごとにベッドを拭き取り消毒するようにすることが推奨されています19。術後のレントゲン撮影は、各手術室で行うとよいでしょう。X線プレートなど器材を適切に消毒することも必要です19。COVID-19 は VTE リスクを上昇させるので VTE 予防薬投与は通常通り行うべきです21。また、予防抗菌薬投与も通常通り行うべきです19。
Q20
感染が疑われる患者や感染確定患者の緊急、準緊急手術後の手術器械の取り扱いについて注意すべき点を教えてください。
手術終了後の手術器械の運搬や洗浄に関しても十分な感染予防策をとることが重要です。洗浄にかけるものは、可能な限り密閉容器での運搬を推奨します。それが難しい場合は、台車にオイフのようなディスポーザブルシーツを敷き、その上に手術器械を置き、さらに手術器械の上にもディスポーザブルシーツをかけて周囲への汚染を最小限にすることに努めてください。また、洗浄を担当するスタッフも、飛散による汚染、感染防止のため、術者同様に長袖ガウン、マスク、ゴーグル(もしくはフェースシールド)、キャップ、二重手袋、シューズカバーを着用して、目、鼻、口のみならず、肌への飛散がないようにしてください。洗浄終了後に手術器械を取り出すときには、汚染されていない防護具(長袖ガウン、マスク、ゴーグル、手袋、等)に交換していることが望ましいと考えます。洗浄も手慣れたスタッフが施行することが必要です。
Q21
感染リスクのすくない患者の手術を行った後で、感染していたことが判明しました。どのように対応したらよいでしょうか?
個人防護策および手術後の手指洗浄が徹底されていれば、低リスクと判定されます。ただし、認識されない曝露の可能性は否定できないため、自己モニタリングだけではなく、施設の関係部署に連絡し対応を協議してください。状況によっては保健所に連絡し指示を受ける必要があります。 個人防護策に不備があった場合(フェースシールド、マスク付きのガウン等のいずれかが未着用で、目・皮膚等のいずれかの防護が不完全であった場合)、高リスクと判定されますので、手術施行時の状況を含めて各施設の対応部署、または保健所に報告し、消毒の方法や範囲、濃厚接触者への対応、業務継続の可否など事後措置について指示を仰いでください。基本的には、最後の曝露後から14日間は業務から外れる必要があり、積極的な体温測定や症状のチェック等のモニタリングを受けなくてはなりません。曝露後に濃厚接触した個人(他の医療スタッフ)がいれば同様の対応が必要です。また、手術室の消毒も不十分であれば、徹底して行う必要があります。
Q22
感染患者および医療従事者に対する心のケアについて教えてください。
患者および医療従事者に対する心のケアも重要です。日本医学会連合のCOVID-19 expert opinionでは下記の通り紹介されています20。
新型コロナウイルスの感染拡大は、CBRNE (シーバーン、chemical, biological, radiological, nuclear, high-yield explosives; 化学・生物・放射線物質・核・高性能爆発物)と呼ばれる特殊災害に分類されます。これらの特殊災害は、自然災害と比べて脅威の対象が目に見えず不確定な要素が多いため、不安や恐怖が強まりやすく、また就労・就学をはじめとする日常生活への影響も大きく、私たちに強いストレスをもたらします。さらに、社会的・身体的接触の低減が要求される自粛生活はメンタルヘルスの維持にとって重要な対人交流を阻害し、強い孤立感、孤独感を生んだり、種々のストレス解消の機会を奪ったりすることがあります。とりわけ、感染者とその家族、および医療従事者のためのメンタルヘルス対策は喫緊の課題です。感染者に関しては、感染症の予後・後遺症への懸念はもちろんのこと、隔離によるストレス、経済的問題、他者を感染させてしまったのではないかという不安、周囲からの差別・偏見など、多様な精神的苦痛が生じえます。
また、認知機能低下も生じうることが指摘されています。感染者への支援に際しては、感染者が様々な精神的苦痛を感じることは決して異常ではないことを十分に理解したうえで、現実的な対処法を考えたり専門家につないだりすることが望まれています。
医療従事者に関しては、職務によって自身が感染するかもしれない不安に加えて、限られた資源や情報の中で感染症の診療や対策に当たらざるをえないことによる苦悩を感じやすい状況にも置かれています。更に、日本固有の状況として、医療従事者が周囲から差別等の対象になる可能性もあります。勤務やシフトの間に十分な休息・睡眠をとる、健康的な食事をとる、体を動かす、家族や友人と連絡を取り合うなどのセルフケアを普段以上に心がけるとともに、支援を求めることを恥ずかしいと思わず、必要に応じて上司・同僚や信頼できる人に積極的に支援を求めることが重要です。日本精神神経学会は、国内外の有用な情報まとめたリンク集を提供しています21。
<参考資料>
1.日本整形外科学会ホームページCOVID-19関連特設サイトhttp://www.joa.or.jp/media/institution/program_change_notification.html
2.日本整形外科学会ホームページCOVID-19関連特設サイトhttps://www.joa.or.jp/topics/2020/files/suggestions_for_resuming.pdf
3.Fang Y, et al. Sensitivity of Chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR.
Radiology, 2020. https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200432
4.Ai T, et al. Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology, 2020. https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200642
5.European Society of Gastrointestinal E. ESGE and ESGENA Position Statement on gastrointestinal endoscopy and the COVID-19 pandemic. 2020:https://www.esge.com/assets/downloads/pdfs/general/ESGE_ESGENA_Position_
Statement_gastrointestinal_endoscopy_COVID_19_pandemic.pdf
6.Chiu PWY, Ng SC, Inoue H, et al. Practice of endoscopy during COVID-19 pandemic: position statements of the Asian Pacific Society for Digestive Endoscopy (APSDE-COVID statements). Gut. 2020.
7.Soetikno R, Teoh AY, Kaltenbach T, et al. Considerations in performing endoscopy during the COVID-19 pandemic. Gastrointestinal endoscopy. 2020.
8.日本医学会連合 COVID-19 expert opinion 2020 年 11 月 20 日版
http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20201218.pdf
9.https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200518.pdf
10.Mori M, Ikeda N, Taketomi A, et al. COVID?19: clinical issues from the Japan Surgical Society Surgery Today 2020; 50:794?808
11.COVIDSurg Collaborative. Mortality and pulmonary complications in patients undergoing surgery with perioperative SARS-CoV-2 infection: an international cohort study Lancet. 2020 May 29; S0140-6736(20)31182-X.tas doi: 10.1016/S0140-6736(20)31182-X
12.http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf
13 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/shingatainflu/cyakudatsu.html
14.http://jrgoicp.umin.ac.jp/related/ppe_catalog_2011/PPE_PPT_201102-2.pdf
15.(医学会連合・外科系12学会共同提言) 新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言
16. Yano K. CDC「医療施設における新型コロナウイルスに曝露した可能性のある医療従事者のリスク評価と管理のためのガイダンス」. CDC Watch. 2020;146:
https://www.crbard.jp/Japan/media/Japan/General-Site-Images/Home/Images/CDCWatch146.pdf
17. JBJS COVID-19流行下の整形外科待機手術再開に関するガイドラインレビュー
18. https://vimeo.com/399733860
19. Repici A, Maselli R, Colombo M, et al. Coronavirus (COVID-19) outbreak: what the department of endoscopy should know. Gastrointestinal endoscopy. 2020.
20. 日本医学会連合 COVID-19 expert opinion 2020 年 11 月 20 日版
http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20201218.pdf
21. https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=79